監修:隈 研吾
淡交社
<アートの本棚>
私は日ごろから日本建築の、たとえばふすま一枚で仕切られた部屋の頼りなさだとか、欄間の筒抜け感だとか、薄い壁のはかなさだとか、そういった類にどちらかというと辟易としていた人間です。日本からそのようなあいまいな境界が消え去り、たとえば古風な旅館スタイルよりもホテルの部屋の堅牢でプライバシーがしっかり守られた空間を良しとする風潮が高まることは時代の必然なのかな、と思っていたのです。しかし、意外にも近代建築においては、むしろ日本的境界のあいまいさをリスペクトし、透明で壁のない建築こそ文化の円熟した姿である、という考え方があることをこの本を通じて、恥ずかしながらはじめて知ったのです。本書では「境界の技術の宝庫」たる日本建築の優れた例を美しい写真で紹介。私は依然として繊細な境界群について手放しで賛美する気持ちこそ起こりませんが、日本を日本たらしめているこの空間操作術について、これまでよりも注視していきたいと思いました。
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