著:内田百閒
中央公論新社
<食べる本棚>
文豪が食について記した文章に対して軽い拒否反応を示してしまう私ですが、内田百閒先生の文章にはまったく嫌味がなく、さすが百閒先生、人格が違います。そんな先生ですが、毎日の食事の品目はすべてメモするし、何か気に入った食材があると毎日食べないと気が済まないような、ちょっと偏狭なお方だったのだとか。たとえば晩年鰻に凝って、ひと月のうち28日食べたというエピソードも。本書で強く印象に残ったのが台湾への渡航前においしい和食とビールにありつこうと見知らぬ神戸をひとり駆けずり回る『不心得』。食へのこだわりが強すぎたゆえの悲劇を、独特の力の抜けた文章で淡々と記しているのが笑えます。
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