森鴎外
新潮社
〈京都歩きの本棚〉
「高瀬舟は京都の高瀬川を上下する小舟である」日本近代文学を代表する作家、森鷗外による1916(大正6)年に著された『高瀬舟』の書き出し。時代は寛政(1789-1801)の頃、とあるから19世紀、江戸時代も後半。弟殺しの罪で遠島になる喜助なる罪人と護送役の同心、羽田庄兵衛との舟中で交わした会話。罪の所以と心情によりもたらされる生きるということの意味。短編であるが読む時の年代と状況により、より新たな思いが感じられる優れた作品。ハリのある文章ですね。冒頭部と照応する「次第に更けて行く朧夜に、沈黙の2人を載せた高瀬舟は、黒い水の面をすべって行った」。103年を隔て高瀬川のほとりにある立誠図書館でこの文を読む、贅沢なひとときです。
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