著:幸田文 編:青木玉
平凡社
〈食べる本棚〉
著者をことばで表現するなら「凛とした佇まい」であろうか。「台所をなんと見ているか、と叱られたことがあります。台所には火と水と刃物がある。家中さがしても、火水刃物が揃って置いてあるのは台所だけ、台所ではもう少し緊張した態度、憚(はばか)りある気持ちが必要だろう」と文人の父、幸田露伴からたしなめられたエピソードを記す。家事が不得手で病弱だった母の代わりに中学一年の時から台所に立った著者は、父から料理を始め家事全般、人との関わり方、世間をどう観るかなどの薫陶を受け、小説や随筆を遺した。著者の作品『流れる』(1955)は花柳界を題材に零落する芸妓置屋とそこに生きる人々を描いたもので著者の作家としての名声を確立した傑作。発表翌年に成瀬巳喜男監督、田中絹代主演で映画化された。
(館長岡見)


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